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天気記号と天気 [傾向と対策]

本稿は気象予報士試験第40回(平成25年第1回)から50回(平成30年第1回)までの出題内容を分析した結果に基づきます。本文中の「これまで」と「過去」はこの期間を指します。

出題の概要

アジア太平洋地上天気図(ASAS)の観測実況値から現在天気、気圧の変化、雲の状態(十種雲形)のいずれかを読み取らせる問題は毎回出題されています。

その中でも、天気記号から現在天気を読み取らせる問題は、高い頻度で出題されています。

天気記号の読み取りで出題されるのはASASで用いられる国際式ですが、読み取った現在天気を国内式に読み替えさせる問題も出されたことがあります。

天気記号の問題は解けて当たり前で、ここで点数を取れないと他の受験生と差がついてしまいます。学習時間の余裕があるうちに整理して、確実に覚えましょう。

天気記号と天気の種類

国内で用いられている天気記号には国際式、国内式、日本式の3種類があります(図1)。

図1 天気の種類
天気の種類.png

このうち、試験に出題されるのは国際式と国内式ですが、3つをそれぞれ簡単に整理しておきます。

国際式


アジア地上天気図(ASAS)で用いられる天気記号はWMO(世界気象機関)が定めたもので、「国際式天気記号」あるいは単に「天気記号」と呼ばれています。

国際式では、天気記号は観測実況値(図2)の青枠で囲った位置に表示されます。

図2 観測実況値の記入形式
記入形式(枠).png
出典:気象庁

国際式では、天気を現在天気と過去天気の2種類に分けています。
現在天気と過去天気の表記場所を確実に覚えてください。


現在天気(WW、WaWa)

現在天気は「観測時」あるいは「観測時または観測時前1時間内」の天気です。

観測を有人観測所で行ったか、自動観測所で行ったかにより、2種類の記号があります。

1)有人観測所の現在天気(WW)

有人観測所は気象台、地方気象台、測候所のことで、常駐職員が観測を行っています。

観測項目は視程、現在天気、大気現象、雲量・雲形・雲の向きです。

図3 天気記号(有人観測所の現在天気、WW)
symbols_ww.png

参考書に掲載されているのは有人観測所の天気記号(図3)(以下、「有人式」と表記)が多く、気の利いた書籍では「WW」という記号が掲載されています。

2)自動観測所の現在天気(WaWa)

自動観測所は正式には「特別地域気象観測所」(94ヶ所)と呼ばれ、計測器による自動観測を行なっています。

無人の観測所なので、雲量・雲形・雲の向きは観測していません。したがって、自動観測所の天気記号では、雲に関する表記はされません(図2の「自動観測による場合」を参照)。

図4 天気記号(自動観測所の現在天気、WaWa)
symbols_WaWa.png

自動式の天気記号(図4)(以下、「自動式」と表記)は「WaWa」と表されます。こちらは参考書にあまり掲載されていません。

WWとWaWaを見比べると、微妙に異なることが分かると思います。

次の「出題の傾向」でも述べますが、自動式(WaWa)の出題回数は低いので、覚える必要性はないでしょう。


過去天気(W1)

過去天気は「観測時6時間以内の天気」のことです。この定義は出題されるので覚えておきましょう。

過去天気にも有人式と自動式がありますが、有人式(図5)を覚えておけば十分でしょう。

図5 天気記号(有人観測所の過去天気、W1)
symbols_w1.png

国内式


予報士試験では「国内式天気種別」もしくは「国内式」の名称で出題されていますが、正式名称を「気象庁天気種類表」と言います。

図6 天気(国内式)
日本式.png

気象庁の気象データはこの15種類の天気で記録されています(気象業務法施行規則第1条の3)。

気象予報士試験ではたまに出題されるので、学習が必要です。

【注意】
気象予報士試験で「天気」とあったら、それは国内式の天気のことを指します。
国際式は必ず、「現在天気」もしくは「過去天気」と4文字で表記されます。

日本式


ラジオの気象通報や新聞の天気図などで用いられます。中学校の理科で習う天気記号がこれです。

日本式天気記号は、独自の天気記号と風力階級により表示されます。

図7 日本式の天気記号
日本式天気記号.png

日本式の天気には、「にわか雨」「にわか雪」「雷つよし」など、国際式や国内式にはない天気があります。

図8 天気(日本式)
日本式天気.png

気象予報士試験では出題されたことがないので、試験対策上は学習は不要です。

出題の傾向

過去11回の試験で、天気記号は毎回出題されています。実技1、実技2の両問で出題されている試験も2回ありました(第50回、第47回)。

出題形式


天気記号から現在天気を読み取らせる問題が圧倒的に多くなっています。

ほとんどの出題は次のように、( )内を穴埋めで答えさせる問題です。

【出題例】(第50回実技1を改変)

#50-1-1.png
 「チェジュ島では、現在天気は(①)雨で前1時間内に止み間が(②)。」

正解: ①弱い、②ない


過去に1回だけ、観測実況値から現在天気の天気記号を転記させる問題が出題されています。観測実況値の記入形式を理解していれば容易に解ける問題でした(第42回実技1)。

国際式


有人式、自動式

有人式と自動式の別では、有人式の出題が圧倒的に多くなっています。

自動式は1回出題されているが(第47回実技1)、有人式の天気記号を覚えていれば解答できる問題でした。

なお、第42回実技1でも自動式の読み取りが出題されましたが、問題内容に不備があったとして、全員が正解扱いされています。

過去の事例を見ると、自動式の出題は、有人式の天気記号を覚えていれば解答できる配慮がされているようです。


現在天気、過去天気

これについては、問われるのは現在天気が圧倒的に多くなっています。

過去天気は「過去6時間以内の雷電」(WI=9)が1回出題されたのみです(第48回実技1)。

図9に、これまでに出題された天気記号(WW番号別)とその出題回数を示します。

図9 現在天気(有人式)の出題傾向
ww別出題回数(40〜50).png

ww=10番台、20番台、40番台、60番台、70番台、80番台から出題されていますが、その中でもww=25、61、80が多くなっています。

WW 現在天気
25 観測時前1時間内にしゅう雨があった
61 弱い雨、前1時間内に止み間なし
80 弱いしゅう雨

国内式


国際式の天気記号を国内式天気で答えさせる問題が、過去に2回、出されています(第42回実技1、第41回実技1)。

【出題例】(第42回実技1)

#42-1-1.png

「父島の天気を以下の国内式天気種別から選んで答えよ。」

(選択肢)
快晴,晴れ,薄曇り,曇り,煙霧,砂じん嵐,地ふぶき,霧,霧雨,雨,みぞれ,雪,あられ,ひょう,雷

正解: 晴れ (「晴れ」となる理由は「国内式の対策」で後述)


対策

出題の大半は「有人観測所」の「国際式」「現在天気」であることから、まずはこれをしっかりと覚えることです。

国際式の対策


現在式天気の対策

まともに暗記すると数が多いので、過去の出題傾向を踏まえた上で覚える対象を絞り込みます。

気象庁HPや参考書に掲載されている天気は長ったらしので、試験で問われる簡素化された形式で覚えます。

例えば、ww=61は気象庁HPでは
「雨,観測時前1時間内に止み間がなかった。観測時に弱。」
とありますが、試験では
「弱い雨、観測時前1時間内に止み間なし」
の形式なので、これで覚えましょう。

過去に出題されたものとその関連を抽出しました。最低限、これだけは覚えましょう。

【霧】
ww=45 霧又は氷霧,空を透視できない。観測時前1時間内変化なかった

【雨】
ww=60 弱い雨、前1時間内に止み間あり
ww=61 弱い雨、前1時間内に止み間なし
ww=62 並の雨、前1時間内に止み間あり
ww=63 並の雨、前1時間内に止み間なし

【雪】
ww=73 並の雪、前1時間内に止み間なし

【しゅう雨】(対流性の雲から降る雨)
ww=25 観測時前1時間内にしゅう雨があった
ww=80 弱いしゅう雨
ww=81 並又は強いしゅう雨
ww=82 激しいしゅう雨

【しゅう雪】(対流性の雲から降る雪)
ww=85 弱いしゅう雪
ww=86 並又は強いしゅう雪


「前1時間内」が問われることもあるので、確実に覚えましょう。


自動式は覚えなくて良い

自動観測所の天気記号は、有人式と同じものもあれば異なるものもあります。記号は同じでも天気は異なるものもあります。

傾向編でも述べましたが、過去の数少ない出題例では有人式と自動式で天気記号と天気が一致するもののみが問われています(第47回実技1)。

これまでの出題傾向を踏まえると、自動式の天気記号と天気を覚える必要はありません。


過去天気の対策

有人式の過去天気はW1=3から9までの7種類のみなので、全て覚えます。

注意点が2つあります。W1=7の天気記号は「雪又はみぞれがあった」ですが、現在天気では「弱い雪で、前1時間内に止み間あり」です。記号は同じですが、現在天気と過去天気では異なります。

また、W1=8(しゅう雨性降水)の記号は現在天気にはありません。

過去天気の自動式は出題事例がないので覚えなくて良いでしょう。

国内式の対策


出題頻度が低い割には国際式と国内式の対応関係が複雑です。これを覚えるかどうかは各自で判断してください。

簡略のために、2つに分けて説明します。下記で説明しないものは出題の可能性は極めて低いと思われます。

1)全雲量で天気(国内式)を決めるパターン

WW=00〜29は、天気記号の種別に関係なく、全雲量から天気(国内式)にします(図10)。

ただし、図で青色で塗っていないところは対象外です。WW=04〜06は国内式では「煙霧」です。
又、WW=17は「雷」です。

又、WW=13については、後述する「雷光」と「雷電」の違いが出題されたことがあります。WW=17と紛らわしいので、注意してください。

図10 現在天気と国内天気の対応(1)
国内式への変換(1).png

全雲量(8分量)に対応する天気(国内式)は必ず覚えてください。

全雲量 天気(国内式)
0、1 快晴
2〜6
7〜8


ここで、先の問題を再度考えてみます。

【出題例】(第42回実技1)

#42-1-1.png

「父島の天気を以下の国内式天気種別から選んで答えよ。」

(選択肢)
快晴,晴れ,薄曇り,曇り,煙霧,砂じん嵐,地ふぶき,霧,霧雨,雨,みぞれ,雪,あられ,ひょう,雷

現在天気は「電光は見えるが,雷鳴は聞こえない」( WW=13)なので、天気は全雲量で判断します。
全雲量は8分量で「2」なので、正解は「晴れ」になります。

注意:
WW=13(電光)は雷鳴がないため、「雷電(雷鳴および電光)または雷鳴があった状態」とする国内式の「雷」には該当しません。(気象庁「天気予報等で用いる用語」)


2)天気(日本式)に集約するパターン

天気には霧雨、雨、雪の「強」「並」「弱」の区別がありません。霧についても国際式のような細かい区別がありません。

したがって、霧系は「霧」に、雨系(しゅう雨を含む)は「雨」に、雪系(しゅう雪を含む)は「雪」に集約します。

図10 現在天気と国内天気の対応(2)
国内式への変換(2)説明入り.png


現在天気(WW) 天気(国内式) 摘要
42〜49  
50〜57 霧雨 強さに関わらず「霧雨」
58〜67、80〜82 強さに関わらず「雨」
70〜75、77、78 強さに関わらず「雪」


最後に

天気記号と天気について、私自身が勉強していたときに分かりにくかったところをまとめました。みなさまの学習の効率化にお役に立てれば幸いです。


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トラフが浅まる?(主語と述語の関係) [傾向と対策]

「低気圧」「トラフ」などのじょう乱を主語にして文章を組み立てる場合、その主語を受ける述語はどうなるのか。気象表現では一般には使われない独特な表現が用いられることがあります。

試験では特殊な出題例はありませんが、「トラフが浅まる」というのは一般的な用法とは異なります(普通は「浅くなる」と言いますよね)。

ほぼ毎回「問1」で出題される実況把握では時折、述語を穴埋めさせる問題が出題されます。筆記問題でも、じょう乱の消長について記述する問題ではこうした述語を用いて解答することになります。

そこで第40回以降の実技試験で出題された中からじょう乱が主語になっている文章を取り上げ、述語別にまとめてみました。あまり神経質になる必要はありませんが、ざっと眺めて慣れておきたいものです。

低気圧

存在・状態を表す述語


ある 
関東の東海上には中心気圧990hPaの発達中の低気圧ある

位置する 
低気圧はトラフの東側に位置する
低気圧は強風軸の北側に位置している。

存在する 
この低気圧は、アムール川下流にある寒冷渦の南東象限に存在している。

発生する
36時間後には、津軽海峡付近に新たに低気圧発生する

離れている 
低気圧は強風軸から南側に離れている

他のじょう乱などとの関係を示す述語


対応する
黄海の低気圧は寒帯前線のジェット気流に対応している

結びつく
この低気圧は、初期時刻から24時間後にかけて西側から接近する500hPa面の低気圧と結びついて急速に発達する。

移動を表す述語


入る
低気圧がトラフの前面の強い正渦度移流域に入る

進む
初期時刻に四国沖にある低気圧が、深まりながら東北東へ進む
九州の南岸にあった低気圧は24時間後から36時間後にかけて北に進む

東進する
4日には発達した低気圧がオホーツク海をゆっくりと東進する予想となっている。

盛衰を表す述語


発達する
この低気圧は、初期時刻から24時間後にかけて西側から接近する500hPa面の低気圧と結びついて急速に発達する
低気圧はトラフの接近により緩やかに発達する
今後24時間以内に低気圧が発達する可能性を述べよ。

閉塞する
このような特徴はこの低気圧閉塞した構造を持っていることを示している。
日本海北部の低気圧閉塞し始めていることを示している。

衰弱する
その後は500hPa面の低気圧と重なって急速に衰弱しながら東進する。

高気圧

存在・状態を表す述語


ある
オホーツク海南部には1026hPaの高気圧ある

盛衰を表す述語


形成する
北部に高気圧が形成される。

弱まる
北部の高気圧弱まる

張り出す
大陸の優勢な高気圧張り出し,気圧傾度が大きい。

気圧

存在・状態を表す述語


示す
気圧が極小を示す

強弱を表す述語


高い
この台風に伴う閉じた等圧線のうち気圧が最も高いのは〇〇hPaの等圧線である。

上昇する
気圧は約1.2hPa上昇した

低下する
12時間後から24時間後にかけて中心の気圧が急速に低下する

下降する
気圧が0.1hPa下降している。

下がる
気圧は3時間で2.3hPa下がっている。

低い
中心気圧がより低い

トラフ

存在・状態を表す述語


ある
500hPa天気図では、日本海西部にトラフある

強弱を表す述語


深まる
トラフ深まりながら後ろから接近し、この低気圧と結びつく。

浅まる
トラフ浅まりながら速い速度で東進する。

他のじょう乱などとの関係を示す述語


結びつく
トラフは深まりながら後ろから接近し、この低気圧と結びつく

移動を示す述語


近づく
トラフが低気圧の西側から近づき、低気圧と結びつく。

接近する
トラフは低気圧の西側から接近する

進む
500hPaのトラフは、48時間後には図9に示す位置まで進むと予想される。

通過する
16日午後には、寒気を伴った500hPaトラフが関東地方を通過すると予想されている。

追い越す
トラフは低気圧を追い越す

東進する
トラフは浅まりながら速い速度で東進する

気圧の谷

存在・状態を表す述語


なる
初期時刻に南西諸島にある気圧の谷が低気圧となり、深まりながら前線上を東北東へ進む。

強弱を表す述語


深まる
気圧の谷深まりながら東北東進する。

移動を示す述語


東北東進する
気圧の谷が深まりながら東北東進する


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相当温位鉛直断面図 [傾向と対策]

鉛直断面図

図の概要

相当温位鉛直断面図は相当温位の鉛直方向の分布を表したもので、相当温位の立体的な分布を把握することができます。

縦軸は気圧(hPa)で高さを表示し、横軸は北緯です。

断面図1.png


高層天気図の一種である850hPa面の相当温位と風の分布図(FXJP)はよくご存知でしょう。FXJPは等相当温位線の集中帯や暖湿気の流入を見るのに便利です。

このFXJPは850hPaという水平面で相当温位と風の分布を見たものですが、水平面と直交する鉛直方向の断面で相当温位の分布を見たものが相当温位鉛直断面図です。さらに、鉛直方向の風の分布を書き込んだものは「相当温位・風の鉛直線断面図」となります。

断面ということは地上(海面上)とどこかで交わるはずで、それが出題文では「直線(線分)X-Yに沿って鉛直に切った断面図」のように表現されます。

先の断面図は、長崎沖の線分X-Yに沿って鉛直方向に切っています。

断面図2.png



出題の傾向

過去10回の試験で、鉛直図は5問の出題がありました。

【相当温位・風の鉛直断面図】

第40回実技2
相当温位・風の鉛直断面図から、低気圧に伴う前線の構造と特徴を読み取る問題
・等相当温位線の分布から、前線の特徴を読み取る
・風の鉛直分布から温度移流を判断する
・4枚の断面図を時系列順に並べる

第41回実技1
相当温位・風の鉛直断面図から、前線(停滞前線)と大気の状態(風の変化、安定状態)を読み取る問題(平成24年台風第16号接近時)
・前線の名称
・風の変化、相当温位の状況を読み取る

第42回実技1
相当温位・風の鉛直断面図から、降水域の特徴を読み取る問題(平成24年九州北部豪雨発生時)
・降水の要因となる暖湿空気の流入状況を読み取る
・風速の鉛直分布の特徴を読み取る
・上空の温度移流を読み取る
・降水をもたらす雲が形成されている暖湿空気の特徴の読み取り

【相当温位南北鉛直断面図】

第47回実技1
上空方向の相当温位の分布の変化の特徴を読み取る問題

【気温・温位・風の鉛直断面図】

第47回実技2
前線を横切る温位の鉛直断面図から、温暖前線、寒冷前線の立体構造を読み取る問題

このように、相当温位の鉛直断面図の出題では前線がテーマとなることが圧倒的に多いことが分かります。


対策

相当温位断面図に関する出題は、断面図が何を表しどのような特徴が表現されているのかが理解できれば、出題文に誘導されて解答できる内容です。

とは言え、限られた試験時間内で手際よく解答するには、代表的な事例を頭に入れておいた方が効率が上がります。そこで前線と集中豪雨について見ておきましょう。


前線を読み取る

断面図で前線が読み取れるようにしておきましょう。

まず前線帯や転移層について理解しましょう。前線や前線面は実際は「線」や「面」ではなく、水平方向の幅や鉛直方向の厚さを持っています。幅を持った前線は「前線帯」、厚さを持った前線面は「転移層」と呼ばれます。

転移層を等圧面で切り取ったものが前線帯だと考えても良いでしょう。

さて、こちらは米国の教科書"Atmospheric Science"(1977年版)に掲載されている、ジェット気流の鉛直断面図です。縦軸は高度(km)及び気圧(mb)、横軸は北緯(左にいくほど高緯度)です。実線は等温位線、破線は等風速線です。

Wallace and Hobbs, 1977_2 2.png


この図から次のことが分かります。

・ジェット軸(Jで図示されている)の下方に前線がある
・転移層では等風速線が集中している

次の図は、同じくジェット気流の鉛直断面図に等温線(実線)と等風速線(破線)を表したものです。

等温線 3 2.png


前線帯では等温線が何本も横切っていることから、気温の水平傾度が大きいことが分かります。

なお、前線の部分では暖気が上へ、寒気が下へもぐりこむため、転移層の部分で前線性の逆転層(移流逆転層)ができることがあります。


集中豪雨を読み取る

集中豪雨をもたらす線状降水帯の多くは、風上で積乱雲が繰り返し発生することで形成されます。これは大気下層に水蒸気が大量に蓄積され、強い南よりの風で持続的に流入することで発生します。

線状降水帯の正体は組織化された積乱雲です。線状降水帯のできやすい領域は、積乱雲のできやすい領域でもあります。すなわち、下層の空気塊が持ち上げられて、自由対流高度に達しやすい場です。
具体的には、
・下層の相当温位が高いこと
・下層風収束場が存在すること
です。

梅雨前線の南側で発生する線状降水帯を、断面図で見てみます。

暖湿気の流入.png

前線付近南側の上空に湿潤域が見られます。集中豪雨は、高度1km以下の下層で南よりの湿った空気が流入し、湿潤域とぶつかるあたりで生じます。


その他

一般的に相当温位は低緯度ほど高くなります。

こちらは第47回実技1の出題で、領域X、Y、Zにおける相当温位の分布が上空に向かってどう変化するかを聞いています。

相当温位断面図.png


相当温位は330Kしか表示されていません。しかし、相当温位は低緯度ほど高くなることを押さえて一本ずつ丁寧に追っていけば解くことができます。

(解答) X:変化せず、Y:減少する、Z:増加する

また、断面図に風が書き込まれていれば、温度移流を読み取ることができます。上空に向かって時計回りであれば暖気移流、反時計回りであれば寒気移流です。これはエマグラムの場合と同様です。


【参考文献】
吉崎・加藤「豪雨・豪雪の気象学」(朝倉書店、2007)
気象庁「平成26年度予報技術研修テキスト」
徳島地方気象台「線状降水帯について」
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地上実況図など [傾向と対策]

図の概要

本項では「地上実況図」「アメダス実況図」「地上実況図、レーダーエコー合成図」として出題されたものを扱う。

気象現象は気圧、気温、風などの気象要素に特徴ある分布が現れるので、複数の要素を同時に解析することで今後の展開予測が可能となる。

地上実況図は、地方地図に重ねて気圧、気温、風などが書き込まれている。

気圧は0.1hPa単位で表した下3桁が表記される。
例)「863」→1086.3hPa、「023」→1002.3hPa

風速の単位は秒速(m/s)表示が多いが、ノット表示のこともあるので、その都度、凡例で確認のこと。

実測値の他に、気温や気圧の等値線が書かれていることもある。等圧線は2hPa単位で書かれていることが多い。

アメダスの観測項目は降水量、風向、風速、気温、日照時間、積雪の深さであり、気圧は含まれない。したがって、「アメダス実況図」には通常、風向、風速、気温が書き込まれている。

また、レーダーエコーと気象要素の対応を見るために、レーダーエコー合成図に地上実況図を重ねた「レーダーエコー合成図・地上実況図」も出題される。

地上実況図.png


出題の傾向

テーマとなった気象現象は台風、温帯低気圧、沿岸前線である。

問われる内容としては、
・シアーラインの解析(作図、読み取り)
・等圧線の解析(記入)
・風向、風速、気温の読み取り
・気圧、気温、風の分布の特徴
・異なる時刻の図から、気圧の特徴の変化を読み取る
・台風や低気圧の中心位置の記入
などである。

シアーライン解析は3回出題されているが、2回は沿岸に形成される事例であった。シアーラインの作図(記入)は後述する練習をしていれば困難ではない。

等圧線の解析(記入)問題は、未記入の等圧線を2〜3本とそれぞれの等圧線の値を記入させるものである。
等圧線の分布の特徴問題では「低気圧の分裂」が出題されているので、これについては対策編で触れる。

以下に、回別の出題概要を記す。

第40回実技1
①地上気圧・風の予想図(風速はノット)(関東地方)
・気圧の分布と風の分布の予想
②アメダス実況図
・シアーライン(沿岸前線)の解析(読み取り)

第42回実技1
レーダーエコー合成図・地上気圧実況図(九州地方)
・強雨域の位置する地上気圧場の特徴

第42回実技2
地上実況図、レーダーエコー合成図(風速はノット)(西日本)
・等圧線解析
・レーダーエコー分布と気圧分布の対応の特徴
・時刻経過に伴う気圧の谷の変化と移動の状況

第44回実技1
地上実況図(気温、風)(風速はm/s)、レーダーエコー合成図(関東地方)
・風向、風速、気温の読み取り
・降水域に対応する地上風の分布と気温分布の特徴

第45回実技1
地上実況図(風速はm/s)(九州地方)
・等圧線の記入、台風の中心位置の記入
・台風中心の移動距離と平均の早さを算出

第46回実技1
地上実況図(風)(風速はm/s)(九州地方)
・台風の中心位置の読み取り

第46回実技2
レーダーエコー合成図・地上実況図(風速はm/s)(北海道・東北)
・帯状エコーに対応したシアーラインの解析(作図)、等圧線の記入
・気圧場の特徴

第47回実技1
地上実況図(風速はm/s)(関東地方)
・強い雨の要因となった風向分布の特徴(風の収束)

第48回実技2
アメダス実況図(風、気温)(風速はm/s)(関東地方)
・気温と風の読み取り

第49回実技1
アメダス実況図(風速はm/s)(福岡県)
・気温、風の読み取り
・シアーライン解析(作図)

第49回実技2
地上実況図(風速はm/s)(東日本)
・台風上陸時の等圧線の記入
・気圧分布の特徴


対策

答案対策

シアーラインや実測値の読み取り問題では、「内陸部の最大風速は?」のように、「沿岸部」と「内陸部」の見極めが求められることがある。「海岸線から〇〇km以内が沿岸部」と捉えるのではなく、解析されたシアーラインの一方を沿岸部、もう一方を内陸部というように相対的に捉えるのが適切であろう。

気象庁の「地域に関する用語」には次のようにある。

沿岸:海岸線の両側のある広さを持った地域と水域。
内陸:海岸(地方)に対して、海から遠く離れた地帯。「沿岸(部)」を除く。

具体的な事例ではどうだろうか。こちらは「山形県の気象特性」(山形地方気象台)から。

山形気象台.png


海岸線から最大で20kmほどは沿岸部と読み取れそうである。

一方で、第49回実技1では、福岡県の日本海側沿岸のアメダス実況図読み取りとシアーライン解析が出題された。

第49回_2.png


この問題における沿岸部と内陸側は上の図のようになっている。南の風50m/sは博多の測定値だが、模範解答では博多は内陸部とされている。

次に、気圧の分布の問題で着目すべきは、
・高気圧(高圧部)、低気圧(低圧部)が形成されている位置
・それらが地形要因などで分断されている模様
・気圧の谷の状況
であり、それを記述する。

例)
・神奈川県から房総半島にかけて気圧の谷となる。
・低気圧の中心が北海道の日本海側とオホーツク海側に分かれている。

気圧分布では、低気圧が2つに分裂する問題が2回出題されている。台風や低気圧は山脈などの地形の影響を受けて、等圧線が変形したり分裂することがある。

具体的には低圧部がひょうたん型になり中心が分裂したり、山脈に沿って伸びたりする。このようにして発生した低気圧は副低気圧と呼ばれる。最近では、2017年の台風5号が中部山岳地帯(日本アルプス)により分裂した実例がある。

風の分布については、どこにどのような風向の風が吹いているかを答える。

例)
・南海上から南西風が南部沿岸に達するが、内陸部では風が弱い。


日頃の練習

地上実況図の入手は一般には困難なため、代用できるもので練習したい。

シアーラインの作図練習は、850hPa風・相当温位予想図(FXJP854)や850hPa天気図(AUPQ78)で行う。これらの天気図は総観規模ではあるが府県単位の地上実況図とはスケールが異なるが、練習材料にはなる。

等値線(等温線、等圧線)を短時間で書く練習をすること。良質な練習材料は乏しいが、気象庁HPの地方別のアメダス気温観測値で1℃ごとに等温線を引いてみるのが手頃。

アメダス.png


また、過去問題や参考書の問題などを、日頃から練習の素材としてコピーして集めておき、試験前の2週間ほどは毎日繰り返して作業を手に覚えさせると良い。

気圧や風の分布を記述するときは具体的な地名を記すことがあるので、県名や海域名を確実に覚えておきたい。過去によく出題されている関東地方、九州地方については、白地図で県名を言えるようにしておこう。

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第40回から第49回までの計10回分の問題の傾向を探り、その対策を考えていきます。
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