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合格できないのは勉強不足のせい? [なんか変だぞ、この試験]

合格が難しいとされている気象予報士試験。実技試験については試験自体の難易度が高いのではなく、十分な情報と教材が提供されていないために学習のピントがずれて合格できないのです。

今回のポイント

・一般的に入手できる情報だけでは学習教材が不足している。
・参考書は過去問題集に過ぎず、教材不足の課題を解決してくれない。
・出題者のクセを掴んで学習することが短期合格の秘訣。


この試験は本当に難しいのでしょうか?

過去問題にチャレンジして、こんなことはありませんでしたか?

「・・・の風の場の特徴を述べよ」だって?特徴ってなんだ?う〜ん、分からない。

悩んだ挙句に答えを見ると、

 「東側では強く、西側では弱い」

えっ!そんなことでいいの?

このように、あまりに単純すぎる解答に驚くことがしばしばです。

難しい式を解くわけでも、十分な考察の上で小論文を書くわけでもない。与えられた問題を75分間で要領よく解いていくだけです。

現在の出題内容であれば天気図を読めれば十分で、あとは出題者の意図を忖度した表現で回答できれば合格できます。その意味では現代国語の試験と類似しているようにも思います。

ではなぜ合格が難しいのか、その理由を考えてみます。


気象庁および出題者の情報提供が不十分

①解析プロセスが公開されていない

気象解析の大まかな流れは一般にも公開されています。

実況監視→総観スケールの把握と予想→メソスケールの予想→天気予報の作成

しかし、じょう乱解析の具体的な過程が公開されていません。例えば気象関係者向けの「短期予報解説資料」を見てみましょう。

・中国東北区・日本海に動きの遅い500hPa のトラフがあってゆっくり東進。北日本の上空には500hPaで-39°C以下の寒気が流入。日本海中部に発達した低気圧があってほとんど停滞。全国的に気圧の傾きが急で、広い範囲で風が強く、西日本から北日本の日本海側では波高3~4.5m程度を観測。西日本日本海側から北日本にかけて3~29cm/3hの降雪を観測。

・日本海西部から北陸地方へ地上シアーラインがのびている。西日本の上空には 850hPa で-12°C以下の寒気が流入。5 日 21 時の高層観測では松江で 850hPa の気温-14.1°C、福岡で-12.3°Cを観測。

(2018年2月6日03時40分発表、短期予報解説資料の「1.実況上の着目点」)

解説文中に「トラフがある」「シアーラインが伸びている」とありますが、何を根拠にそこにトラフやシアーラインを解析したのかが述べられていません。

これは関係者向けの資料だからそうなのではありません。次の「頼りない参考書」の項でも後述しますが、根拠を示さずに結論に飛躍する結論ありきの「解説」は参考書でも多く見受けられます。これではいつまでたっても、自分で考えることができるようにはなりません。

話は飛びますが、数学の試験では答えが正解でも、途中のプロセスが正しくなければ点は取れないですよね。逆に、考え方が正しければ、答えが間違っていても部分点をもらえることだってあります。

前線についても同じことが言えます。まずこちらの英国気象局(Met Office)の地上天気図を見てください。

英国の事例.png


なかなか賑やかな天気図ですよね。973hPaの低気圧は閉塞していますが、寒冷前線が2本出ています。気象庁なら解析しないような前線も描き込まれている感じです。また、黒線でトラフが描かれています。

前線の描き方は国によって異なると言われます。日本の気象庁は、明らかな気象現象を伴っていないと前線として表記しないと聞いたことがあります。

こうした解析の基準は明確にした上で開示すべきです。参考書に必ず載っている「前線は等温線の集中帯の南縁付近に解析できる」は正しいのですが、これだけでは気象庁がそれをどう解釈しているのかが分かりません。

参考書に書かれているはレベルあまりに基本的なことばかりで、これだけでは問題を解くことができないこともしばしばです。解析の基準が公開されていないのに、前線を描かせる問題はおかしいのです。


②過去データにアクセスできない

次に問題なのは、気象庁が保有しているデータの提供が不十分であることです。

気象予報士試験では、気象現象に応じた防災事項の理解が問われます。そのためには、過去の気象情報を読むことが重要な勉強法の一つとなります。

しかし、気象情報は発表から概ね1〜2週間も経過すると、ホームページから削除されてしまいます。

こちらは2月8日に閲覧した全般気象情報の一覧です(青とか紫の文字の色は気にしないでください)。

気象情報.png


そしてこちらは、その5日後の13日に閲覧した全般気象情報の一覧です。

2018-02-13.png


2月6日から6日にかけての7本の気象情報が削除されています。ただし、1月30日発表の「北・東・西日本の長期間の低温に関する全般気象情報第4号」は残されています。

このように気象情報は削除されるとアーカイブされないため、過去の気象情報を閲覧することはできません。これでは最低1年間は気象情報を読み続けないと、気象情報の学習ができないことになります。

専門図が入手しにくい現状も問題です。「高層風時系列図(ウィンドプロファイラ)」は気象庁のHPから24時間経過すると削除されてしまいます。「低気圧が接近した時の風の変化を調べてみよう」と思ってもできないのです。

一般には入手が困難な図も多く出題されます。例えば、気象庁はエマグラムを公開していません。また、高価な専用ソフトを保有していないと作成できない図も出題されます。このように、学習意欲のある受験生が特定の気象現象について理解を深めようとしても、情報を入手することができないのです。

一部の民間事業者から入手可能なデータもありますが、国家試験なのだから一般に入手可能な資料で学習できる範囲に留めるべきではないでしょうか。


③天気図の表現や出題される用語が標準化されていない

試験問題では「場」や気象要素の分布の特徴について問われることがあります。

例えばこんな感じです。

・700hPa上昇流はどのようなところで大きくなっているかを述べよ。
(解答)等相当温位線の集中帯とその南の相当温位が高いところで大きい。

・じょう乱に対応する850hPa面の温度場および700hPa面の鉛直流の特徴を述べよ。
(解答)等温線の北への盛り上がりと強い上昇流がある。

・降水域の分布と移動の特徴を予想図と解析雨量による降水量図で比較して述べよ。
(解答)数値予報よりも降水域の集中性が強く、移動が遅い。

解答例にあるような表現は、普段どこでお目にかかれるのでしょうか。短期予報解説資料でも見ないし、ましてや天気予報で聞くこともありません。

普段から気象情報などに接することで身につくものであれば対処のしようもありますが、これでは全くもって出題者の目の付けどころを忖度しないと解けない問題です。

この手の出題については、資料図のどのような点に着目すべきなのか、もっと基準を明確にすべきだと思います。

また、試験で問われる用語についても、一般的な資料にあたっていてもお目にかからないものがあります。

第40回試験の穴埋め問題では「山越え気流」という用語が出題されました。気象庁のHPを検索しても載っていない言葉です。そうした用語を出題するのであれば、出題者は出題可能性のある用語集をまとめて提示すべきです。


頼りない参考書

気象庁などから提供される情報の不足を受験業界が補ってくれればまだ良いのですが、そうでもありません。学習の中心となる参考書は、その執筆者の多くが気象庁OBであり、受験生の持つ疑問が共有されていないのかもしれません。

現在主流の実技の参考書は3通りあります。

「気象予報士かんたん合格テキスト 実技編」(技術評論社)
「気象予報士試験 模範解答と解説」(東京堂出版)
「ひとりで学べる!気象予報士実技試験」(ナツメ社)(注1)
 注1)2017年に後継書「読んでスッキリ!!解いてスッキリ!!」が発売。

こうした参考書には次のような共通した問題点があると思います。


問題点1 そもそも参考書の機能を果たしていない

いずれの書籍も実技の気象解析に必要なスキルや理論の解説書ではなく、単なる過去問題集にとどまっています。

試験対策の参考書なら出題傾向を分析し、試験で狙われそうなテーマ別の解説をして欲しいものです(注2)。例えば、実技試験では雲域の形状や等温線の形状など、「形状」を問う問題がよく出されます。衛星画像であれば「コンマ状」「フック状」、等温線であれば「北に盛り上がっている」のような表現がされます。これらをまとめて提示するのが参考書ではないでしょうか。

注2)「ひとりで学べる!」には気象現象別の解説がありますが、初学者に適した内容になっていません。

また、解説に書かれていることは経験則として単に覚えるべきことなのか、あるいはメカニズムを理解しなければならないのかがはっきりせず、モヤモヤ感が募ります。

例えば、「ポーラーロウは寒候期に寒冷前線の北側の寒気内の海上で形成される」というのはなぜなのか、経験則として覚えれば良いのか疑問です。ポーラーロウは日本付近では日本海上で発生し寿命も短いため、観測データが乏しく発生メカニズムは詳細には分かっていません。どこまで理解しておくべきなのでしょうか。

過去問題の解説書としても不備が多いです。「模範解答と解説」では、試験の問1でよく出題される穴埋め問題の解説はないに等しいです。また、模範解答が理解できないので解説文を見ると、そこが一番説明が欲しいところなのにサラッと流されていることも多いです。「2,500円も払って購入したのに裏切られた〜!」と思う瞬間です。

ちなみに「かんたん合格」と「模範解答と解説」は執筆者が重なっているようで、どちらを見ても同じ書き方になっているので併用するメリットはあまりありません。


問題点2 気象解析のプロセスが解説されていない

参考書を開くと「等温線解析」「強風軸解析」「トラフ解析」「前線解析」など、「解析」という用語が多用されています。

参考書は解析を何のためにするのかを説明せず、「〇〇解析はXX天気図で解析します」と唐突な解説がされています。単にそういう解析法があるということが提示されるのみ、具体的な解析プロセスは示されません。

例えば「かんたん合格」では「強風軸解析は多くの場合において300hPaや250hPaの等圧面天気図で解析します。」とありますが、強風軸解析を何のために行うのかが示されていません。またその方法論も提示されていないのです。

これでは試験合格に必要な実力がつくはずがありません。解析が大切であるならば、事例の限られた過去問だけでなく、生の天気図から練習問題や見本を作成して提供するのが参考書ではないでしょうか。


問題点3 専門図の読み方が説明されていない

試験に出題される図は、高層天気図以外にも多岐にわたります。例えば、下記に挙げる図は試験に頻出です。

・ レーダーエコー合成図・地上気圧実況図
・ 高層風時系列図
・ 状態曲線
・ 降水量の時系列図
・ 相当温位・風の鉛直断面図
・ 気象要素の時系列図

実はこれらの図は、高層風時系列図以外は一般には目にしないものばかりです。したがって、繰り返し出題される専門図については、しっかりと読み方の解説が欲しいものです。

しかし、基本中の基本である高層天気図の読み方すら解説している参考書はない(注)のですから、無理な注文なのかもしれません。

(注) 「図解入門 最新天気図の読み方がよーくわかる本」(秀和システム)は唯一、高層天気図の読み方を解説する書ですが、2018年3月現在で第2版を最後に改版されておらず入手できません(Kindle版は購入可)。

ちなみに、試験に出題される図の名称も気になります。「レーダーエコー合成図」や「高層風時系列図」という名称は気象庁のHPには出てきません。「レーダーエコー合成図」は多分「降水ナウキャスト」のことで、「高層風時系列図」は「ウィンドプロファイラ」です。


最後に

気象庁は気象の観測網を有し、観測により得られた成果に基づいて予報を発表しています。したがって、気象庁のポリシー(前線やトラフに対する基準)や解析のプロセスを自ら明確にしてもらいたいと思います。

また試験の問題でしか目にしないような表現や図が出題される以上、出題者である気象業務支援センターは試験に出題する用語、表現、専門図をまとめて公認テキストとして出版すべきだと思います。

いわゆる「士業」の試験では、社会需要や業界団体の要望などを取り入れた上で国が合格者数を決めています。合格者数の計画を見誤るとどうなるかは、弁護士や公認会計士の数の増加が質の低下を招く要因になった例を見れば明らかです。

気象予報士試験ではどのような合格者数の設定がされているかは不明ですが、情報開示が乏しい現状を目の当たりにすると、あえてこうした状況を作り出すことで合格の壁を高くしているのではないかとうがった見方をしてしまいます。

このような環境で何回も受験に望む受験生は被害者です。この試験に合格するには、出題者のクセを掴むことがコツです。早く試験から解放されて、より深い気象の世界に足を踏み入れていただきたいと願います。

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